「2024年度横浜創英高校入学式校長式辞(一部を抜粋)」
「私は今年で63の歳になりましたが、入学式の記憶がほとんどありません。小学校の入学式は母親と自宅前で撮った写真が残っているので出席はしたのだろうと思います。中学校の入学式は全く記憶がない。高校はあえて行かなかったし、大学は寝坊して式に間に合いませんでした。
こんな調子ですから覚えていないのは当たり前なのですが、でも、高校の入学の時に自分に言い聞かせたことはしっかりと覚えています。高校に入る前は病に伏したこともあって、私はあまり穏やかな気持ちではありませんでした。
その時こう自分に言い聞かせた。『昨日は終わったから過去はもう関係ないでしょう。その一方で未来はまだ来ていないのだから、今の自分にあるのは今日だけでしょ。とりあえず一歩前に踏み出してみようか』って自分に約束したのです。
よく人は『迷っています。悩んでいます』というが、都合のいい言葉だなあと思います。だって『迷っている。悩んでいる』と言えば、一歩踏み出さなくていいので。人間どんなに迷って悩んで決めたことでも、決めたこととやめたことの差は大した差ではありませんよ。おそらく51%と49%程度の差です。大事なことは、決めてとりあえず一歩前に踏み出してみることです。
私の人生は失敗だらけでした。中学校二年生の時に病にかかり中学校三年生の一年間は不遇だった。でも、病気にかかったことが失敗なのではなく、病気にかかった自分と向き合わなかったことが失敗でした。そもそも人が困難を越えられないのは、その大きさや厳しさではありません。困難を越えられないのは、自分が困難と向き合おうとしないからです。なぜこうなってしまったのか、過去を悔やみ、これからどうなるのだろう、未来を憂うことに力を使ってしまう。
失敗したからと言って、それは大したことではありません。失敗から学んでまた挑戦すればいい。雨のあとに虹が出ると人々は必ず立ち止まって虹を眺めます。少し前に雨が降っていたことを忘れている。きれいな虹を見たけりゃ、その前のちょっとの雨は我慢できます。人は失敗した時が終わりなのではありません。夢を持つことをあきらめ、努力することをやめた時が終わり。そもそも大人は社会の中で失敗することで多くのことを学んでいます。学校だけが失敗することを許さないのはおかしい。
今日というリセットの日に新たな夢や新たな目標に向けて一歩踏み出してみませんか。人は人生のすべてを一瞬で変えることはできませんが、人生の方向性は一瞬で変えることができます。親が子の可能性を信じるように、学校も生徒の夢や希望や芽を摘むことなく,生徒の可能性を信じていきたいと思います。
人生というのは、自分がこれから描こうとする景色の大きさに一致します。小さい景色しか描けない人は、その範囲の人生を歩んでいくことになる。人生で描く景色はできるだけ大きい方がいい。生徒の皆さんが人生の大きな景色を描く礎を築くこと、そのことが私たち横浜創英の役割だと思っています」