令和7年度横浜創英高等学校 学校長式辞一部抜粋
誰かが敷いたレールの上を歩くのは楽かもしれないが、誰かが敷いたレールは先が見えない。これからはレールを敷くのも、レールの先の行先を決めるのも君たち自身です。
ソフトバンクの孫正義さんがアップルの創業者でアイフォンを世に出したスティーブジョブスについてこう語っていました。ある日孫さんがアメリカのアップル社でアップル社のCEOとミーテイングをしていた。孫さんとミーテイング中CEOにジョブスから電話が入ります。電話を切った後、CEOが孫さんにこう言うんですね。「正義、悪いがミーテイングをやめなくてはならない。ボスがすぐ来いといっている。次の製品について話をしておきたい」。この日はアップル社の新製品4Sの発表日でした。その日に次の製品の話をしたいから今すぐに来いと。この頃のジョブスは病状が芳しくなく、この次の日2011年10月5日に亡くなります。
これが覚悟を持って仕事をしている人の信念です。
人には平等に与えられたものが2つあります。1つはそれぞれの限られた時間、もう一つは一度きりの人生。限られた時間と一度きりの人生で君たちはどういう人生の絵を描きますか。
目の前に大きな壁が現れた時、私たちがとりうる選択肢は一つだけです。それは、壁に背を向けることなく、壁の前でしっかりとさ迷うことだ。しっかりとさ迷う。しっかりさ迷っていれば、壁に小さな裂け目が見つかることがある。その裂け目を一生懸命手で搔き分けていると、小さな道が出来て、向こう側に通ずることがある。しっかりさ迷っていれば、その道はいつか必ず見つかる。
人はなぜその道を見つけられないのか。それは壁の大きさや厳しさゆえのことではない。人が壁を越えられないのは、目の前の壁に向き合わないからだ。なんでこんなことになってしまったのか過去を悔い、これからどうなってしまうのだろうと未来を嘆く、そのことばかりに力を使ってしまう。
人生を振り返れば、自分が育っている時って、順風満帆な時ではないですよ。うまくいっている時ではなく、失敗、苦悩、困難。どうしようもない気持ちで空を見上げ、夜も眠れず涙が溢れそうになる。苦しくて苦しくて仕方ない。でもね、あとから振り返ると、人はそういう時に成長している。
夢と可能性は違います。夢は遥か彼方にあるが可能性は背伸びみたいなものだ。1センチ手を伸ばせば届くかもしれない。人生というのは、その人が描く背伸びの大きさに概ね比例をします。
小さい背伸びしか描けない人はその範囲の小さい人生を歩むことになる。背伸びはできるだけ大きいほうがいい。なぜならば可能性という背伸びは、自分がこれから歩もうとする未来に向けたビジョンだから。未来に向けたビジョンは大きく持つのに越したことはない。
人生というのは、何もない原っぱに、自分だけの絵具を使って、自分だけの絵を描いていく作業です。私の18歳の色は灰色だったかもしれないが、灰色もいろいろな色が混ざり合って灰色になる。その一つ一つの色を大事にしていれば、絵が輝く時がある。
何となく歩む人生をやめる。自分はどのような絵を描きたいのか。どのような独創的な絵を描くのか。どのような美しい絵を描くのか。そのことをはっきり決めて次の一歩を踏み出してください。私も君たちのお陰で創英に新しい絵を描くことができました。
最後に、2週間ほど前に北鎌倉の明月院に梅を観に行きました。明月院の手前に絵本作家の葉祥明さんの美術館があります。1枚の詩が飾ってあった。詩は「母親というものは」というタイトルですが、少しだけアレンジして読みますね。
「親というものは」
親というものは無欲なものです。
わが子がどんなに偉くなるよりも
どんなにお金持ちになるよりも、
毎日元気でいてくれることを
心の底から願います。
どんなに効果な贈り物より
わが子の優しい一言で
十分過ぎるほど幸せになれる
親というものは
実に本当に無欲なものです。
だから、親を泣かすのは
この世で一番いけないことです。
人生を振り返った時に、最上の幸福は自分の幸せではなく、家族の幸せであることが、いずれ君たちもわかる。
卒業生のみなさん、そしてこれまでお子さんを支えてこられた保護者の皆さま、ご卒業おめでとうございます。3年間あるいは6年間、本校の教育活動を支えていただいたことに改めて感謝を申し上げます。
そして今横にいるすべての先生方の思いを代弁して話を終えたいと思います。
人はたやすく過去の場所に戻るものではない。未来に希望のある者は過去には戻らない。過去は良かったなどと言わない。でも、どうしようもないくらい辛くなったら戻ってきなさい。どうしようもなくうれしい報告があったら戻ってきてください。君たちと出会えたことに感謝をしています。ありがとう。

